彼は藤娘
「え!?マジで!?うわぁ……待てば海路の日和有り、やねえ。」
「うん!これからは遠慮せぇへんで~!……まあ、今、ちょっと荒れてはるから近寄れへんねんけど……」
「ほな、ふられて荒れてはるん?未練たらたら?」

私がそう聞くと、遥香は苦笑した。
「彼女とね、1年間遠距離恋愛してはってんけど、もう終わりにしてほしいって言われはってんて。彼女、結婚しはるらしい。」

おお!

「それは……未練あっても、諦めなしょうがない感じ?遥香、付け入るチャンス!」
「で、しょ~?でも今は無理。怖くて。」
遥香が怖がるなんて、どんだけ?

次に来たのは、奈津菜。
「おはよ!3年間同じクラスやね!」
「おはよ~。しかも担任は佐野先生!感謝!」

……公(おおやけ)にはされてないけど、今年のクラス分けは、間違いなく各担任が贔屓の子たちをキープしてると思う!
その辺の事情をピロートークで聞いてるらしい奈津菜は満足そうに微笑んだ。
まあ~……幸せそうな顔してからに。

「あと1年の我慢やね、なっちゅん。」
遥香にそう言われて、奈津菜はうれしそうに大きくうなずいた。
あと1年。
卒業したら、2人は晴れて大っぴらに付き合うのか、一気に結婚までしちゃうのか。

「我慢も何も、毎日幸せいっぱいやん。」
そう言いながら姿を現したのは、燈子ちゃん。

「おはよう。……寝不足?」
「うん。テオさん、正午起床やから、夕べは1時にモーニングコールがかかってきた。こっちはグッナイやっちゅうねん。」
「あ~……夏時間。1時間早くなってよかったねえ。」
そう言うと、燈子ちゃんは苦笑した。

テオさんは、昨秋ニューヨークに帰った。
が、どうやら燈子ちゃんと恋仲らしい。
……なぜ「どうやら」なのかと言うと、テオさんは燈子ちゃんに依存するだけで手を出さなかったくせに帰国する際、将来の約束らしきことを言い残してったらしい。

「どうせ、異国で親切にしてもらって感傷的になってるだけ。すぐ忘れるよ。」
と、むしろ燈子ちゃんは、テオさんを忘れようとしていた。
が、ニューヨークから時差をものともせず、相変わらずテオさんは燈子ちゃんにマメに連絡を寄こすらしい。
地球の反対側にいても、現代では毎日無料で会話することもできる。
メールもスカイプもツイッターもフェイスブックも……何でも有りだ。

「で、あきちゃん?何かおかしくない?喧嘩でもした?」
遥香にそう指摘されて、私は口をへの字に結んだ。

「ふふ。あきちゃん、それ、師匠と同じ表情。うつったんちゃう?」
燈子ちゃんにからかわれて、私はじんわりと泣けてきた。

「……表情がうつるぐらい私は大好きやのに……彩乃くんは、私のことなんか、どうでもええねん……」
うるうると涙目になってみたけれど、きっぱりと否定されて鼻白む。
「いや、それは、ない。師匠、あきちゃんしか見てへんし。あの執着は異常やし。」

異常……。
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