彼は藤娘
……結局、私は2人にカフェへ連れられた。
一体何の話があるのかと身構えていたところに、いきなり女性の名前を挙げられた。
「あきらけいこは、どこで彩乃と知り合ったの?」
天使のセルジュにそう聞かれたけれど、最初、私は何のことかわからなかった。

「あやの、って……」

「梅宮彩乃。」

うめみや……梅宮ーっ!?
梅宮くんは、梅宮彩乃くん?

くん、でいいのよね?

あんなに綺麗なのに、名前まで女の子みたいなんて!
……今までイロイロ大変やったやろうなあ。

あ、でも。
あやのくん、かあ。
ふふ、懐かしい名前だ。
何だか、うれしくなってきた。

「あきちゃん?笑ってる?」
「あ、ごめん。あのね、梅宮くんの名前、知らんかってん。今、初めて聞いた。綺麗な名前で彼にぴったりやね。それにね、昔、同じ名前の女の子の友達がいたから懐かしくって。」
「……名前も知らんかったんや。」
竹原くんとセルジュは、顔を見合わせて首をかしげた。

あれ?
もしかして、私と彩乃くんが既にもっと仲良しと勘違いしてはったんかな?
「あのぉ?なんか、話あるんですか?」

「うん、話というか、お願い、かな。」
天使のセルジュがにっこり笑ってそう言った。

この笑顔で頼まれたら、私はどんなことでも聞いてしまうだろう。

「彩乃、今、ちょっと大変でね。冬まで待ってやってくるかな。」

へ?
「……待つって?」

「今はほんまに余裕ないねん。ほら、さっきの彩乃、覚えてる?ただでさえクールやのに、ピリピリしてるというか。」
竹原くんが、ばつの悪そうな顔をする。

……不機嫌モードが続いてるんや。
てか、私は何をお願いされたんやろう。

「近づくな、ってこと?……心配せんでも私、そんな勇気ないわ。こないだは衝動的に追いかけてしもたけど、とりあえず学校とお名前わかったから、もう充分。」

私がそう言うと、竹原くんは意味ありげにセルジュを見た。
天使のセルジュが、にっこり微笑む。
「義人の目に狂いはなかったね。捕獲できてよかった。」

捕獲!
人を狸か何かのように、ひどいな……と思うけど、やっぱりこの笑顔には怒れない。
「檻にでも入れておくん?やっぱり、親友が迷惑がってるからこれ以上近づくな?」

苦笑しながらそう聞くと、竹原くんがちょっと笑った。
「いや、逆。お友達になってくれへん?当分は俺らも一緒に。あいつが落ち着くまで、あきちゃんを逃がしたくないねん。俺らがフォローするから。」 

お友達……。
誰が誰と?
逃したくない、ってどういう意味?
私が?
この、人たちと?

ふと横を見ると、あの3人の胸像のポスターが掲示されていた。

「美女と美丈夫と天使。」

この中にまじれってか?

似合わへんってば!
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