赤ずきん
同じ服に同じ荷物、同じ道を辿りながら、今日も彼が幸せそうに笑っている。
できれば会いに行きたくない。
けれど、そうしないといけないのだ。
…そうすることしか、できないのだ。
「なんて素敵な花なんだろう…!お婆さんにあげたらきっと喜ぶなぁ」
その言葉を聞いた瞬間、自分の心は冷えきった。
折れてしまいそうな程か弱く生えた木の影に身を潜めやり過ごそうとするが、同じ結末を求めて行動する俺達はやはり、巡り合わなければいけない運命なのだろう。
脅える君を抱きしめたくて伸ばした腕が君の服を切り裂く。
涙が溢れた自分の顔が彼の瞳に揺れていた。
嗚呼、これで何度目なのだ。
枯れ果てた野原に赤い頭巾が落ちる。
君と俺以外存在しない世界になってしまったここは、天国なのか地獄なのか。
君の瞳に映る世界が本当の世界になる前に、俺が君を噛み千切り食べてしまえばいい。
ただ、それだけが
こんなに辛いのだから、この世界はやはり地獄。
ただ、普通に出会いたい。
他愛もない話をして、君の笑顔を誰よりも近くで見たい。
でも、どう願ってもこの姿は変わらない。
変わらない限り、俺は君を殺し続けるしかできないのだろう。
『オオカミ』と『赤ずきん』として産まれただけで、俺達は決してこの運命から逃れることはできない。
それでも、俺は…
「…またね、赤ずきん」
明日もまた、食べてあげる。