Returns *リターンズ*
「私ね、」
街並みを見下ろしたまま、彼女が話し始めた。
「私ね、今日誰とも会えなかったら、
……自殺…しようと思ってた。」
え、どういう事…?
「私、はるちゃんの他にも、中1の時の同じ
クラスの子何人かに『会いたい』って連絡した
んだ。…で、今日誰も会ってくれなかったら、
……自殺するって決めてた。この時期文化祭
やる高校多いから、忙しいみたいでさ。みんなに
断られちゃって。会おうって言ってくれたのは
はるちゃんだけだった。すごく…すごく嬉し
かった。」
「……なんで、なんで…自殺なんて。」
「中1の時が一番楽しかったなー。
自分の事だけ考えればよかったし、
なんにでも夢中になれた。」
彼女の親は、中2の時に離婚し、それからは
お父さんと2人で暮らしていたらしい。
一番多感な時期の親の離婚。
そして、帰りの遅いお父さんに代わって、
全てこなさなきゃいけない家事。
「離婚してお母さんが家を出てから、お父さん
おかしくなっちゃってね。ふさぎこんでたかと
思うと急に怒鳴り出したり…。お母さんがいない
んだから、私がお父さんを理解して支えないと
いけないんだけど、だんだん疲れちゃって…」
…そんな。
さっきまで明るく話していたから、
こんな思いを抱えてたなんて、
それに気づかなかったなんて…。
涙が溢れ出し、止めることも出来ない。