オフィス・ラブ #∞【SS集】
「要は、そういうシチュエーションに、どれだけ必然性があるか、ですよね」
「実感こもってるね」
こもらいでか。
学生の頃の話だけど、男とふたりで出かけるのをなんとも思わない子を好きになっちゃったことがあって。
その子とつきあってる間は、もう自分てなんて狭量なんだと葛藤することがしばしばで。
友達に、お前のほうが普通だろ、と言われて初めて、そうだったのかと我に返って別れたんだった。
「甘酸っぱいねえ」
「だって、ひとり足して3人で行きゃいいのに、なんでわざわざふたりだよって思いません?」
思う、と堤さんだけがうなずいた。
新庄さんを見ると、ぴんと来ない顔でグラスを傾けている。
なにぼんやりしてんの、と堤さんに突っこまれ、いや、と口を開いた。
「あまりそこまで、考えたことがなくて」
「じゃあ例えば、俺と大塚さんが一日ふたりで出かけたりしたら、どうですか」
「そりゃ、後でお前を呼び出すだろ」
それだよそれ、と堤さんがあきれた声を出した。
「お前絶対、嫉妬深いタイプだよ。涼しい顔してるけどさ」
「そんなこと、ないと思うが」
「気づかせないくらい、大塚さんがうまく立ち回ってくれてるんですよ、ありがたいと思ってください」
微妙に納得いかなそうに、新庄さんが新しい煙草をくわえる。
そこに、何くつろいでんの、と新婦の声がした。
見ると、光沢のあるワンピース姿の石本さんと、黒のすっきりしたドレスの大塚さんがやって来るところだった。
いつの間にか、ナンバーズが終わっていたらしい。