オフィス・ラブ #∞【SS集】
「僕は、意味もなく男とくっつかれたら、もう嫌です」
「そうされたら、どうするの」
石本さんの問いかけに、そうだなあ、と考え、ふと思いついて、正面からの視線を意識しながら冒険してみた。
「少なくとも、男の脚を隠れて蹴るような、姑息な真似は、しませんね」
真っ向勝負上等、と石本さんがうなずく。
思いがけず、新庄さんは気を悪くした様子も見せず。
その代わり、ほおづえをついて煙草を吸っていたのを、壁に背中を預けるようにして、おもむろに脚を組み直した。
「三ツ谷」
ものすごく抑えて、低いんだけど、妙に愛想のいい声が飛んでくる。
わあ…怖い。
「堤じゃないが、俺もそれなりに、ルートを持ってる」
腕を組んで、面白そうに口元は笑んでいるものの、これっぽっちも笑ってない目が、俺を射た。
「本社に戻ったら、お前とまた仕事できる日も来るかと思ってたが」
──残念だな?
うすうす状況を察したらしい新郎新婦は声を殺して笑い、大塚さんは不思議そうに俺と新庄さんを見ている。
俺はといえば、あまりの大人げなさにあきれつつも、発される威嚇のオーラに完全に圧倒されていた。
もちろん冗談だろうけど、それでも怖い。
すみません僕、調子乗りました。
なんなの、もう嫉妬全開じゃん。
それでよく「そんなこと、ないと思う」とか言えたね。