オフィス・ラブ #∞【SS集】
何十人かにひとり、いるものです。
誰もが「ほしい」と思う、学生が。
「休みの日は、どう過ごしますか?」
「ほとんど、アルバイトをしています」
面接官も人間なので、疲れもすれば、飽きもします。
会社に入って何したいとか、将来の展望はとか聞いたところで、生まれて20年そこそこのひよこさんたちから、たいして面白い答えが返るわけもなく。
だんだん、単に自分の話したいことを訊くようになるのは、これはもう仕方ありません。
精悍で涼しげな顔立ちのその学生は、特に緊張も気負いもない様子で、適度にくつろいで椅子にかけていました。
いまでも鮮明に思い出せます。
清潔な容姿、聞き取りやすい声、きどらない受け答え。
「じゃあ今日この後、何をします?」
「アルバイトに行きます」
この返答に、4名いた面接官が、え、という顔をしたのを、私は見ました。
一次面接官である私が、この二次面接にいたのは、記録係として立ち会うのが人事グループの役目だったからで。
本来なら部下に任せるところですが、この学生の回だけは、絶対に立ち会おうと、自分でシフトを組んだのでした。
もう一度、彼に会いたいと思ったからです。
「なんの?」
彼はここで初めて表情を動かして、少し恥ずかしそうに、ちょっと視線をあちこちさせました。
「ガソリンスタンドです」
別に普通の答えなのに、なぜそんなに照れくさそうに言うのか。
きっと彼なりに、思い入れのあるバイトなんでしょうね、可愛らしい。
「週に、どのくらい?」
「ほぼ、毎日です」
「この時期に?」
「好きなので」
「やりたくても、時間をとれないって学生さんも、多いと思うけど」