オフィス・ラブ #∞【SS集】
もはやただの世間話になっているようで、こういう場面での会話力は、しっかり見られています。

彼は、なんでそんなことを訊くのかわからないというように、少し首をかしげて。



「それは、余った時間でアルバイトをしようとしているからじゃ、ないでしょうか」



実に無駄がなく、的を射た返答でした。

最初からアルバイトありきの生活をしている限り、時間がなくなるなんてことはない。


睡眠時間のようなものです。

減っても、必ずどこかでとるでしょう?


頭のよさと同時に、アルバイトへの愛も伝わってくる、微笑ましく好感度の高い答えでした。



「この業界は、華やかで軽いイメージがあると思うけど」



営業局長が、組んだ両手を机について、身を乗り出しました。

これは、気に入った証拠。



「相当に、泥臭い世界だよ。汚いこともいっぱいある。やれる?」



威圧するように、そう問うと。

青年は、少し考えるそぶりを見せて。



「やったことがないので」



やれるかは、わかりません。

そう言うと、何かを確かめるように軽くうなずいて、でも、と続けました。



「やります」



その凛とした、よく通る声は。

採用決定の合図のようなものでした。

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