オフィス・ラブ #∞【SS集】
思うにあの時の彼は、心からリラックスしていたというよりは、ある意味、斜に構えた虚勢を張っていて。

どうあっても、ガチガチの就活生の空気なんか出してやるもんかという、そんないきがりにも似た姿勢だったと推察されます。


ガチガチの奥にある素顔を見抜くのも、我々プロの仕事であり。

彼のくつろいだ態度の奥にも、若々しい緊張と隠しきれない好奇心が、はちきれそうにほとばしっているのを見てとるのも、我々の仕事です。


若さって、愛おしい。





課長、と鋭い声。

あーあ、見つかっちゃった。


会議と会議の間に、一瞬デスクに戻ったところを、抜け目ない彼につかまりました。



「いい加減、厚生からの書類に目を通してください。提出期限が迫ってます」

「ハンコ貸すから、押しといて」



ダメです、と厳しく言われ、ちぇっと思うと同時に、誇らしさと愉快さに頬が緩みます。

まだ、少年を卒業したばかりといった感じの青年だった彼が。


資料の山に埋もれて、該当の書類が見当たらずフテていると、どうぞ、とクリアファイルに挟んだコピーを渡してきました。

なんて準備のよさでしょう。


あーあ。

つまんない事務書類。

いいじゃんこんなの、読まなくて。

誰が困るの?


厚生だよね、わかってます。

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