オフィス・ラブ #∞【SS集】
「だいたい、俺のところにこの書類が届くこと自体、おかしいんですよ」
「厚生に、宛先変更依頼したんだよね」
「そういうところだけ手際よく動かないでください」
だって自分宛てに来たら、気づく前になくしちゃうもん。
目を通すまでどかないつもりらしく、デスクに両手をついて見おろしてきます。
老眼ぶって、書類を近づけたり離したり、読むのを先延ばしにしていると、彼がため息をつきました。
「概要をご説明します」
その言葉を、待ってたの。
彼にそうやってもらって、読まずに済ませた重要書類が、どれだけあることか。
というか自力で読んだ重要書類が、ここのところ、どれだけないことか。
けれどそれで問題が起こったことは一度もありません。
彼の要約能力は、ずば抜けて高いのです。
より年次の高い社員もいる中、彼をチーフに推したのは、その能力のせいもありました。
要約して説明できるということは、すなわち。
読解力があり、理解力があり、編集力があり、情報の取捨選択能力があり、日本語力があり、プレゼン能力があり。
なにより、センスがあるということ。
これは、ありそうでなかなかない資質なのです。
それと、おそらく彼が生まれ持ってきた、軽快で嫌味のないリーダーシップ。
いち仕事人として、うらやましいほどのそれが、部下を持った時、より強烈に輝くだろうことは、想像にかたくありませんでした。