オフィス・ラブ #∞【SS集】
「お兄ちゃん、焦げてるよ」
「マジか」
トングを持ったままトンボを追いかけていた兄の一哉(かずや)が、グリルのほうに飛んで戻ってきた。
山の上にあるこのコテージは、家のある首都圏と、10度以上気温が違う。
真夏の今でも、夜になれば、半袖じゃ寒いくらい冷える。
「お待たせー、追加のビールだよ」
「これ、食べる前に、腹いっぱいになるんじゃない」
「どうせ誰も酔わないんなら水でいいって、毎度言ってるだろ」
庭先で奮闘する私たちをよそに、大人たちはテラスのテーブルセットに座って、気楽そうにしている。
「由宇、手伝おうか」
ゆでたての枝豆をザルにいっぱい抱えて出てきたお母さんが、声をかけてくれた。
「いいの、大人は座ってて」
「平気だって、恵利さん、あたしもついてるし」
「偉そうに、野菜洗ってるだけじゃねえか」
うるさい、と凛(りん)ちゃんがむきかけの玉ねぎをお兄ちゃんに投げつけた。
「凛、食べ物で遊ばない!」
グリルの隣のテーブルで、野菜を切っていた舞(まい)ちゃんが、厳しく叱責する。
凛ちゃんは、はあい、と少しふてくされた声を出しつつ、素直に玉ねぎを拾って、洗った。
いいな、私もお姉ちゃん、ほしい。