オフィス・ラブ #∞【SS集】
築何十年にもなるこのコテージは、「バブル期」の産物らしく、合板なんか一切使ってない、全部一枚板の、豪華なつくりだ。

真っ白な壁に、チョコレート色のドアや柱。

ちょっと古びた洋館って感じ。


こんな別荘があるなんて、すごいねって言ったら、金持ちの道楽を、貧乏くじで相続させられたんだって凛ちゃんママが言った。

凛ちゃんのママは、私が子供だと思って、適当な返事をしたりしないから、好き。



「気をつけてね」

「平気」



お鍋いっぱいのとうもろこしをざるにあげて、ふと電話台の下の棚に目が行った。

ぽつんと、1冊だけアルバムがある。



「あれ、なに?」



両手がふさがっていたので、行儀悪く、足で指すと、お母さんがそれを手にとって、わあ、と声を上げた。



「舞ちゃんや、一くんたちの、アルバムだよ。保育園の運動会の。片づけ忘れたのかな」



みんなで見よう、とお母さんはそれを持って、私はとうもろこしのざるを抱えて、テラスに戻った。





「うわ、お父さん、若い!」

「嘘だろ、そんな変わらないだろ」



若いよーと笑うお兄ちゃんに、お父さんが憮然とする。

別にいいじゃん、今もかっこいいんだし。



「この時、由宇ちゃんはお腹にいた?」

「ううん、もう生まれてる。うしろのほうに、写真があると思うよ、ほら」



舞ちゃんが尋ねると、お母さんが懐かしそうにページをめくる。

この場にいる全員が写ってる写真の中に、お父さんに抱っこされてる私がいた。

っていっても、言われなきゃこの赤ちゃんが自分だなんて、わからないけど。

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