オフィス・ラブ #∞【SS集】
「舞はもう、小学校に上がる直前だから、さすがにお姉ちゃんだねー」
「この日のこと、ちょっと覚えてるよ。お父さんと貴志さん、リレーで争ったよね」
「そう、俺と新庄でワンツーだった」
「俺は、本気で走る堤の大人げなさに驚いたのを覚えてる」
「こっちの台詞なんだけど」
確かにページを戻ると、デッドヒートをくり広げているらしいお父さんと凛ちゃんパパの写真がある。
でもこの写真、超へたくそで、全然ブレブレなんだけど。
撮ったのたぶん、お母さんだな。
次のページを見て、凛ちゃんが歓声を上げた。
「豊お兄ちゃんもいるよ」
「恵利と二人三脚して、新庄さんにぶん殴られたんだよね」
「子供の前で、そういう物言いはやめてもらいたい」
「事実だろ」
「後を託して、仕事に行っただけだ」
「この頃、小田原の事業も手伝ったりしてて、大変だったんですよね」
しみじみと言うお母さんを、お父さんが優しく見た。
聞いたことがある。
私が小さい頃、じいじの会社を大きくするのを、お父さんが手伝ったらしい。
そのお手伝いと、留守の多くなる家を守るために、お母さんは、私を生んだ後、仕事をやめたのだ。
お父さんは、いまだにそれを、残念に思って、申し訳ながってる。
そんな時、お母さんは、子供たちのそばにいられるほうがずっと大事って、笑う。
でも、最近は、私もひとりで家にいられるし、お母さんは、派遣や契約社員としてでも、仕事に戻ろうかなってたまに言ってる。
ちょっとさみしいけど、お父さんと仕事の話をしてるお母さんは、かっこいいから、働いたらいいって私も思う。
「一哉くん、プレゼント」
そういえばどこかへ消えていた凛ちゃんパパが、唐突に戻ってきた。