オフィス・ラブ #∞【SS集】
「お前んとこのサービス、俺も使ってる」
「ほんと、ありがと」
「目のつけどころもいいけど、それを実現する技術と根気が、すごいよな」
父親の会社だ、なんてことは、あえて言わないけれど。
朴訥な印象とは裏腹に、意外と人懐こく笑う同い年のこの男を、自分は気に入るだろうなという予感があった。
広告代理店という、そのものに興味があったわけではなく。
もう死語になりかけているマスメディアというものの、計り知れない影響力の裏側を見てみたくて。
踊らされているだの、ねつ造だの誇張だの言いながら、結局誰もが無視できない、そういう存在の仕組みに直接ふれたくて。
堤は他の会社を受けることもなく、ここ一本を狙って転職活動をした。
父親の会社で、最低一年働くようにという掟を、疎ましく感じたことはなかった。
大学生活を、就活に脅かされることなくフルに楽しめたのは有意義だったし。
一年のハンディがあったところで、自分はおそらく志望した企業に入れるだろうと、根拠もない確信があったからだ。
父親の会社に貢献したいという気持ちも、ないではなかったけれど、ちょうど歳の離れた兄ふたりが会社の要職についたところでもあり。
自分が抜けたところで誰ひとり困らないだろうと、さっさと抜けてきた。
その選択は、間違っていなかった。
新庄を見た時に、そう思った。