オフィス・ラブ #∞【SS集】
「はい、お待たせしました」
三ツ谷が全員分のドリンクをトレイに乗せて戻ってきた。
律儀にカップを全員に配りながら、自分も椅子に座る。
研修で堤の部署にやってきた彼は、持ち前の不屈の精神と、愛嬌のある明るい性格で、すっかりポジションを確立してしまった。
欲を言えばもう少し、たとえば新庄のような危なっかしさがあれば、いじり倒すに十分だったんだけれど。
まあこれはこれで面白い後輩ができたと、堤は彼を眺めた。
「新庄さん、あれ、乗りましょう。たいして高くないですし」
「どうぞ」
「僕がおつきあいしますよ」
「よしなよ、また殴られるよ。あたしが行ってあげるよ」
新庄の職場が変わってから、なかなかこのメンバーで顔を合わせる機会もない。
そんな話をしたら、誰が言い出したんだか、たぶん彩だが、気づいたらこのテーマパークを訪れることになっていた。
この歳で遊園地ねえ、と思いながらも、新庄のさして広くない部屋に全員で集まるわけにもいかず。
園内で酒も飲めるし、そう思えば割高でもないし、よく考えると悪くない選択だった。
「お前、高いところ、ダメだったんだね」
「私も全然、知りませんでした」
「あたしも、和之が狭くて暗いところダメなんて、初めて知ったよ」
「僕が呼ばれた理由が、わかりました…」
肝心の男ふたりが、アトラクションを満足に楽しめない体質であることがわかり、ここに来て三ツ谷の存在が効力を発揮していた。
別に、そのために呼んだわけじゃないけれど。
そう言うと、三ツ谷が嬉しそうに笑った。
「この間、過去のコンペの記録を見てたら、堤さんたちの時代のを見つけたんですよ」
思わず、新庄と目が合う。
ついでに、大塚とも合った。