オフィス・ラブ #∞【SS集】
貴志は3日間の謹慎処分を受けた。
予想どおり、先輩はお咎めなし。
先輩を殴ったくらいで、謹慎? と思うけれど。
学校側にしてみれば、サッカー部を野放しにしていた手前、ここらで何かしらの手を打たねばと感じたんだろう。
貴志は完全に貧乏くじだけど。
日頃、ごくまじめで成績も優秀な生徒だったから、学校側も教育委員会に持っていくほどの処分にはしなかったらしい。
けれど事件の翌日、どこか誇らしげに登校している先輩の、無残に変色し腫れあがった顔を見た時は。
これだけやったなら謹慎に値するかも、と思わないでもなかった。
「珍しいな、志ん坊と絵里ちゃんが来てんのか」
「この子ら、学校は?」
ジワジワとやかましいセミの声に負けず、父の仲間の大工さんたちが、口々に話しかけてくる。
そりゃそうだ、平日の真昼間に高校生ふたりが、観音堂の修復工事なんて見にきてるんだから。
材木のブルーシートをはがしながら、父がそれに答えた。
「志んの奴が、ヘタ打って、もう来なくていいって言われたんだとよ」
「お前の息子じゃ、しゃーないなあ」
「絵里ちゃんは、お目付け役か?」
建築会社を営む私たちの父は、町大工と宮大工を兼ねた職人だ。
今ではだいぶ依頼も減ったけれど、時折、こうして社寺の建築や修復作業を請け負う。
ちょうどここのところ、山の上の観音堂の修復作業に父親が携わっていることを知った貴志が、作業現場を見に行きたい、とゆうべ言い出したのだ。
「いいけど、お前、学校は」
「だから説明したろ。謹慎中なんだって」
「なんで」
「…絵里、頼む」
さじを投げた貴志に代わり、興味のないことは右から左へ流す父親に、つい先日説明した内容をもう一度最初から語った。
頭の悪い先輩がいて、私にちょっかいを出したから、貴志が正義の鉄拳をふるったのよ、と適当にかいつまんで話すと。
どうでもよさそうに聞きながら、要するにヒマなんだな? と納得して、父親は家に隣接した作業場に戻った。
「お前も行こうぜ」
「私は学校です」
「休めよ、そんなの」