オフィス・ラブ #∞【SS集】
絆創膏で隠し続けるのも変なので、残りの夏を、貴志は長袖で学校に通うはめになった。
貴志と米倉先輩の噂はほぼ事実どおりに広まり、せっかくならと私は、先輩に関するデマをつけくわえて流布させることにした。
「役に立たない?」
「そう。初物専門なのは役立たずなせいって。貧弱だから、相手が経験者だと自信がなくて、できないみたいって」
貴志が目を丸くして、あぜんとしたように私を見る。
お前…と煙草をくわえた口がつぶやいた。
「そんな品のない妹を持った覚えは、ないぞ」
「仕方ないでしょ、これが一番ダメージ大きそうだったんだから。貴志も、その噂聞いたら、倍にして広めてね」
「同じ男としては、さすがに気の毒すぎるというか…」
そんな優しさは無用だとテーブルを叩く。
陶器の灰皿が踊って、音を立てた。
「可愛い妹が、身体張ってつく嘘なのよ。お兄ちゃんなら協力してよ」
「わかったよ」
女って怖いなあ、としみじみ言う薄情な男を、じろりとにらむ。
このくらい、なによ。
私の大事な兄に、一生残るような傷をつけた報いだ。
卒業まで、女の子が寄りつかないどころか、陰でくすくす笑われる存在にしてやる。
せいせいしたところでもう一本、と煙草に手を伸ばしたら、さっと貴志がそれをとりあげた。
「お前は、一日一本」
「なんでよ」
女だから、と自分だけおいしそうに煙を吐いて言う。
「なによそれ!」
「兄心」