オフィス・ラブ #∞【SS集】

絆創膏で隠し続けるのも変なので、残りの夏を、貴志は長袖で学校に通うはめになった。

貴志と米倉先輩の噂はほぼ事実どおりに広まり、せっかくならと私は、先輩に関するデマをつけくわえて流布させることにした。



「役に立たない?」

「そう。初物専門なのは役立たずなせいって。貧弱だから、相手が経験者だと自信がなくて、できないみたいって」



貴志が目を丸くして、あぜんとしたように私を見る。

お前…と煙草をくわえた口がつぶやいた。



「そんな品のない妹を持った覚えは、ないぞ」

「仕方ないでしょ、これが一番ダメージ大きそうだったんだから。貴志も、その噂聞いたら、倍にして広めてね」

「同じ男としては、さすがに気の毒すぎるというか…」



そんな優しさは無用だとテーブルを叩く。

陶器の灰皿が踊って、音を立てた。



「可愛い妹が、身体張ってつく嘘なのよ。お兄ちゃんなら協力してよ」

「わかったよ」



女って怖いなあ、としみじみ言う薄情な男を、じろりとにらむ。

このくらい、なによ。

私の大事な兄に、一生残るような傷をつけた報いだ。

卒業まで、女の子が寄りつかないどころか、陰でくすくす笑われる存在にしてやる。


せいせいしたところでもう一本、と煙草に手を伸ばしたら、さっと貴志がそれをとりあげた。



「お前は、一日一本」

「なんでよ」



女だから、と自分だけおいしそうに煙を吐いて言う。



「なによそれ!」

「兄心」


< 159 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop