オフィス・ラブ #∞【SS集】
「お仕事中は、ほら、髪とかまとめて、きりっとしてるっていうか」
「そのほうが、動きやすいので」
美を扱う会社に勤める者として、そこそこ見た目には気を使うけれど、やはり機能性のほうが優先だ。
階段の上り下りのたびにひるがえるスカートなんてはいていられないし、動くたび揺れる髪に、かまう時間が惜しい。
休日である今日は、そのあたりを気にする理由もないので、スカートで髪も下ろしている。
そのあたりが、違和感があるんだろう。
「もったいない。今日みたいなほうが、ずっと可愛いですよ」
「可愛くたって、仕事の妨げになるようでは意味がないでしょう」
そう言うと、私にサラダをとりわけてくれていた三ツ谷さんが、驚いたように手をとめた。
「女性が可愛くて、何が悪いんですか」
ですか、と訊かれても。
私まで、ピザを食べる手がとまった。
女らしくないとか、男まさりとか言われ続けて、もう25年。
ずば抜けて背が高いわけでもないし、髪も長く胸もある。
特別に、女を捨てようと思っているわけでもない。
だけどいつだって、その形容は私についてまわった。
自慢じゃないけれど、可愛いなんて言われたのは、ごくごく幼少期のみだ。
「可愛くある権利を持つのは、女性だけなんですよ。権利は行使しないと」
「じゃあ男性は、どんな権利があるんです」
「女性を、可愛いと讃える権利ですよ」
どこの国の人だ、と言いたくなったけれど、不思議とその発言は、彼にぴったりと合っており。
はい、とサラダの器をよこしてくれる顔には、照れも背伸びもなく。
少し、気が抜けた。