オフィス・ラブ #∞【SS集】
中規模のコンサートホールを使って、赤文字系の雑誌モデルを目玉に行うファッションショー。
毎年この時期に、翌春の商品の発表を兼ねて我が社が行うプロモーションイベントだ。
全国から、下はティーン、上は30代のキャリア女性が集まって、ショーを楽しみ、握手会や物販、新作の試用などに立ち寄っていく。
「真野ちゃん、ノベルティって、いくつ来てるっけ」
「2000です、追加しますか」
「500よろしく、ちょっと危なそう」
「調整します」
私は、在庫を格納している倉庫の担当者に連絡を入れた。
携帯を肩ではさんで、軍手をした手でカタログの詰まった段ボールを開ける。
繋がった携帯に、最速で500部、バイク便に乗せてもらえないか依頼しながらカタログを次々机に乗せていたら、ひょいと持っていた山をとりあげられて、見ると三ツ谷さんだった。
やっておきますよ、と手振りで示してくれるので、感謝して電話での交渉に専念する。
プレハブのバックヤードを出ると、湿り気を含んだ風がさっきよりも強まっていた。
「着払いで。宛先を申しあげますね…」
ドアが手からもぎとられるように、轟音を立てて閉まる。
日も暮れて、間もなく開場となるホールの入口に、すでに列ができはじめているのが見えた。
強風の中、待たせておくのは危ない。
開場を前倒すべきだろう。
「開場を前倒すようですよ」
ちょうど電話を終わらせたところに、そう声がした。
三ツ谷さんが、風であおられる髪を手でかきあげながら、プレハブを出てくる。