オフィス・ラブ #∞【SS集】
「ちょっと、不穏な空模様ですね」
三ツ谷さんの言葉に、両手で身体を抱きながらうなずく。
冬の嵐が来ているらしい。
経験はないけれど、イベント終了時に天候が荒れていると、お客様の導線とか、大変なことになるんじゃないだろうか。
「今、ビニール傘の手配をしています。あまり風が強いようなら配らないほうが安全ですが」
「すごい準備のよさですね」
「備えてナンボですからね、僕たち代理店の仕事は」
雲がものすごい速さで流れていく灰色の空を見あげながら、三ツ谷さんが笑う。
その時、耳につけたトランシーバーのイヤホンから、開場20分前倒しの連絡が入った。
運営用のチャンネルでも同じ内容が流れたんだろう、三ツ谷さんもイヤホンに耳を澄まし、私に目を向けた。
「始まります、行きましょう」
分厚い防音扉をそっと閉めて、廊下へ出る。
スピーカーの間近でショーの音楽を聞いていたため、耳がキンキンと鳴り、よく聞こえない。
音と、暗闇に光る色とりどりのライトに酔ったようになって、ふらふらとバックヤードに向かった。
こんな世界、仕事じゃなきゃ絶対垣間見ることもなかっただろう。
ショーなんてもちろん、ライブすら行ったことのない私には、なんだか異次元だ。
私はイベント自体の運営ではなく、物販や展示ブースなどの担当なので、進行に気をもむことはなくて済む。
ショーの最中は、お客様もほぼホールに入ってしまうし、今のうちに休憩しておこうと思った。