オフィス・ラブ #∞【SS集】
三ツ谷さんが、まじまじと私を見ているのがわかる。

変な名前ですよね、すみません。


言うべき言葉が見当たらなくて、煮詰まりすぎたコーヒーをすすると、ふっと三ツ谷さんが吹き出すのが聞こえた。

ほら、笑った。

別にいいけど、と思いながら、それでも若干面白くない気分で彼を見ると、目が合って、今度は声を上げて笑われた。


ちょっと、そこまで笑う?

お腹を抱える勢いで笑いはじめた三ツ谷さんは、涙さえ浮かべている。



「あはは…すみません、つい。可愛いなあと」

「可愛いもんですか、ただの夢見がちな親です」

「違いますよ、真野さんが」



私が?



「そういう話、される時は、やっぱり恥ずかしがったりするんだなあって」

「どういう意味ですか」



顔が熱くなるのを感じる。

それを見た三ツ谷さんは、ますます楽しそうに笑い、それをごまかすようにコーヒーに口をつけた。

それでもつい笑ったせいか、湯気でさっとレンズが曇り、あ、とつぶやいて眼鏡を外す。


初めて見る素顔に、なぜかどきんと胸が鳴った。

知的な印象を与える眼鏡がなくなると、少し顔があどけなく、無防備になる。

元から爽やかだけど、それがさらに、すっきりと綺麗に際立って感じられる。


三ツ谷さんはポケットからとり出したハンカチでレンズを拭いて、またかけると、もう行きますね、と微笑んで、カップを片づけ出ていった。



耳が熱い。

自分でも、眉が寄るのがわかった。

何やってるんだ、私らしくもない。


代理店の人間が、広告主に甘いことを言うのなんて、当たり前なのに。

このくらいで動揺するなんて、みっともない。

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