オフィス・ラブ #∞【SS集】

「この間のイベント、大変だったらしいね」

「はい、私はもう、何もできず」

「いい経験できたね。アクシデントは、勉強になるんだけど、なんせ起こそうと思っても起こせないから」



あははっと笑う彼女の爪は、昨日までと違う淡いクリアピンクだ。

そうか、もう立春か。


ワードローブといえば基本黒かモノトーンな私だけど、今年の春は、明るい色をとりいれてみようか。

ブラウンのシャドウばかり使ってないで、春の新色を試してみようか。


あと、なんだろう。

あと私は、何を、せずに生きてきただろう?





「わあ、すごくいいですよ、素敵です」

「どうも…」



会うなり三ツ谷さんが、同行した営業員の目も気にせずにこにこと言うのに、さすがに口ごもる。

この人、これが素なんだとしたら、私はこの先、相当に気持ちを振り回されそうだ。



「今日は、春の新商品に向けたキャンペーンツールのご提案です」

「拝見します」



三ツ谷さんが、次々と目新しい店頭POPやサンプリング用のノベルティなどをテーブルに並べ、てきぱきと説明する。

中には昨年のツールを改良したものもあり、ああ、こんな商品あったなあと懐かしく眺めた。

そうだ、去年はこういうガーリーな色味や光沢が流行った。

というか、私たちが流行らせた。


今年は、同じ路線を踏襲しつつ、少し変えている。


あたるだろうか。

日本中の女性が、この子たちを使って、自分や誰かのために、可愛く、綺麗になってくれるだろうか。

< 178 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop