オフィス・ラブ #∞【SS集】
「この間のイベント、大変だったらしいね」
「はい、私はもう、何もできず」
「いい経験できたね。アクシデントは、勉強になるんだけど、なんせ起こそうと思っても起こせないから」
あははっと笑う彼女の爪は、昨日までと違う淡いクリアピンクだ。
そうか、もう立春か。
ワードローブといえば基本黒かモノトーンな私だけど、今年の春は、明るい色をとりいれてみようか。
ブラウンのシャドウばかり使ってないで、春の新色を試してみようか。
あと、なんだろう。
あと私は、何を、せずに生きてきただろう?
「わあ、すごくいいですよ、素敵です」
「どうも…」
会うなり三ツ谷さんが、同行した営業員の目も気にせずにこにこと言うのに、さすがに口ごもる。
この人、これが素なんだとしたら、私はこの先、相当に気持ちを振り回されそうだ。
「今日は、春の新商品に向けたキャンペーンツールのご提案です」
「拝見します」
三ツ谷さんが、次々と目新しい店頭POPやサンプリング用のノベルティなどをテーブルに並べ、てきぱきと説明する。
中には昨年のツールを改良したものもあり、ああ、こんな商品あったなあと懐かしく眺めた。
そうだ、去年はこういうガーリーな色味や光沢が流行った。
というか、私たちが流行らせた。
今年は、同じ路線を踏襲しつつ、少し変えている。
あたるだろうか。
日本中の女性が、この子たちを使って、自分や誰かのために、可愛く、綺麗になってくれるだろうか。