オフィス・ラブ #∞【SS集】
「きみは、独身?」
確かこの流れの中で、そう訊いた気がするんだけれど。
ふたたび記憶があいまいになってきた。
寝起きの顔で、とろんと大森を見あげる彼女を、やっぱり綺麗だなと見おろす。
ありていに言えば、好みだ。
だから、つれて帰ってきたんだろうか。
少し話しただけでもわかる、その知性は好ましく。
たぶん仕事をしているんだろう、自立した空気は、心地いい距離感と緊張感をくれた。
けど、だからと言って会ったその日につれこんで寝るほど、自分は好色な男じゃなかったはずだが。
飲みすぎたか何かで、はめをはずしたんだろうか?
彼女は、そのへんの事情を覚えているんだろうか。
覚えているのなら、教えてくれないだろうか。
目が合って、ぱちりと彼女が瞬きをする。
少し眠たげに、にこっと笑う様子は、記憶にある印象よりもあどけなく可愛い。
ええと、と大森は言葉を探した。
まずはいきさつを知らなければ、お互いのために。
小さくあくびをする彼女を微笑ましく眺めながら、取り急ぎ、一番大事と思われることを確認しようと思い。
ねえ、と声をかけると、薄く微笑んだ彼女が見あげてくる。
「なんで、ここにいるの?」
彼女の顔が、ヒョウのように牙をむいたかと思うと。
一瞬耳が聞こえなくなるくらいの衝撃が、左頬に来た。