オフィス・ラブ #∞【SS集】
性急な自分を受け入れながらも、ほがらかに笑ってくれるなつきに、心底安堵する。

彼女の髪をまとめているクリップを外すと、艶やかな波がシーツに広がって。


それを見て、思った。

ああ、これは彩じゃない。

よかった、これは彩じゃない。

自分はもう、彩以外の誰かを、こんなふうに愛しんで、抱きしめることができている。


けれど。


――何が愛しいだ。

利用してるだけじゃないのか。


冷静な自分がそう告げるのに、泣きたいような気持ちで、それでもなつきの体温に安らぎを覚えつつ、首筋に顔をうずめて。

きりりとした印象と裏腹に、華奢で柔らかい身体を、気づけば力の限り抱きしめて。

感謝の念と、申し訳なさに襲われながら、それでも夢中で味わった。





「お酒くさい」

「ちょっとしか飲んでないよ」



嫌がる彼女に、ふざけて無理やりキスをする。

声を上げて笑って、よけるふりをするなつきは、まだ軽く息を弾ませて、全身がしっとりと汗ばんでいて。

そのことが、少し罪悪感を軽くした。



「シャワー浴びてくる」

「私も浴びる」



ベッドを降りた大森の後を、素っ裸のままなつきが無頓着に追う。

ぬるめのお湯を浴びながら、互いに洗いあって、抱きあって、キスして、笑い転げて。

こういうのって、いいよな、と思った。


通じあった男女にしか、できない行為だ。

ただ一緒にお湯を浴びる、それだけなのに。


彩に、大丈夫だよ、と言ってあげたい。

俺は今、ひとりじゃないから。

彩も、誰かといることに罪の意識を感じる必要なんて、ない。

そう、安心させてあげたい。


だけど、どうしたらそれを、うまく伝えられるだろう?

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