オフィス・ラブ #∞【SS集】
濡れた髪を拭きながら、何度もメールを打ち直した。


自分のことは気にするな?

そんなの、かえって嫌味だ。


堤とお幸せに?

さらに嫌味だ。


伝えたいのは、彩の選択は間違っていないということと。

幸せになってほしいと、心から願っているということ。


そもそも、こんなメールを送るべきなのかすら、わからないけれど。

今送らなかったら、永久にこのことについて、彩にメッセージを届ける機会を失うだろう。


大森は、液晶画面を眺めながら、しばらく考えて。

ようやく、納得のいく文章を打つことができた。



誤解されやすいけど、堤はいい奴。

幸せに。



伝わるだろうか、これで。

どうか伝わりますように。


祈るような気持ちで送信する。

見えるところに携帯があると返信を待ってしまいそうなので、寝室の充電器に挿して、リビングへ行った。

ソファに座って長い髪の水気を拭いていたなつきが、にこりと微笑んで立ちあがる。



「私、帰るね」

「近いなら、泊まっていったらいいのに」

「近いから、帰るのよ」



なるほど。

明日も平日だし、そう言われると、無理に引きとめることもできない。

もう完全に深夜なので、送っていこう。



「ありがとう、来てくれて」

「まったく、いい歳して、泣きそうな声出して」



そんな声、出してた? と恥ずかしくなって尋ねると、冗談よ、となつきが吹き出す。



「でも、さびしそうな声は、してた」

「ほんと…」



情けなさに、つい視線を落とすと、彼女が笑いながら頭を抱いて、頬にキスをくれる。

その声の、温かくて軽やかな響きに、救われる思いがした。

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