オフィス・ラブ #∞【SS集】
「なんだ、同業者?」
「思い出してないんじゃない」
昼の光の下だと、より瞳の色の差がくっきりする潤が、冷たい声を出す。
大森は、ところどころまだ記憶が抜け落ちているようだと首をひねった。
いったいどんな悪い酒だったんだろう。
あまりに家が近いので、知ってみれば行動範囲がほとんど同じであったふたりは。
休日である今日、実はお互い行きつけだった近所のカフェで昼食をとっていた。
手っ取り早く彼女の情報を得ようと、名刺ちょうだい、と言った大森に、はいと潤がくれたそれには。
大森たちの競合である広告代理店のロゴがでかでかと印刷されていた。
「人事総務だから、代理店らしいことは特にしてないけどね」
「でも潤のとこって、営業の評価制度と教育制度を刷新して成功したの、有名だよね」
「よく知ってるわね」
一応管理職だもん、と言うと、潤が、そうなの、と目を丸くする。
なんだと思われていたんだろうと思いつつ、名刺渡したよね、と確認してみると。
「役職名って、会社違うと、全然ぴんと来ないじゃない」
「ああ、まあね」
「淳一って、そんなんでマネージャー務まってるの?」
そんなんで、はないだろう…。
別に昇進が遅いほうでもないし、部下の信頼を得られていないとも思わない。
真顔で訊かれてしまい、ちょっと悲しい気分でパスタを口に運びながら、もらった名刺を眺める。
先ほど目にした時は、あまりの驚きに、大声で笑いだしそうになった。
夏木潤。
「ほんとに、なつきだったんだ」
え? と訊き返す潤に説明すると、やはり彼女も、あんぐりと口を開けた。