オフィス・ラブ #∞【SS集】
「すごい勘ね」
「いや、たぶんどこかで、フルネームをちゃんと覚えてたんだよ」
月名をベースにしたのも、きっと潤の名前の由来が頭の片隅にあったからに違いない。
無意識でも、自分は結局、限りなく正解に近いところにたどりついていたのだ。
あの日、潤をつれ帰ったように。
「もう会わないとか、考え直した?」
「どうしようかなと思ってる」
「あのさ、俺たち、一緒にいるのがいいと思うんだよね。絶対合うと思うんだ」
「淳一が、彩ちゃんを忘れたらね」
晴れ晴れとした気分で提案したら、ふんと冷たくあしらわれた。
なんと、自分は彩の名前まで教えたのか。
当分、禁酒しようかな、と考えていると、潤がじろっとにらんでくる。
「覚えてないだろうけど、最初の日、私をそう呼んだのよ、あなた」
えっ。
「…最中にってこと?」
そう、と憮然とうなずく潤に、全身の血が引いていく音が聞こえたような気がした。
それは、なんというか、一番やってはいけないことなんじゃないだろうか。
だけどあの時は、酒も入ってて。
だいたい、この2年というもの、腕に抱いたのなんて彩だけで。
一緒に寝たのも、間近で名前を呼んだのも、彩だけだったから。
仕方ないといえば、仕方ない。
けど、これが仕方ないで済むと思うほど、自分も能天気ではない。
「…ごめん」
「外見まで似てるの、私?」
「いや、全然」
じゃあなんで間違えるのよ、と怒られるかと思ったら、意外にも潤は、それならいいわ、と納得を見せた。