オフィス・ラブ #∞【SS集】
いいんだ、と首をひねりながら、同じくパスタを食べる、目の前の姿を眺める。



「ねえ、俺とつきあってくれるよね。で、いい感じだったら結婚しよう」

「なにその、軽いプロポーズ」

「だって、俺たちが結婚しないで誰がするのって、思わない?」



まあね、と潤も相当に軽い返事をくれる。

アイスティのストローを噛む彼女と目が合って、お互い思わず笑った。


彼女の色違いの瞳は、そうやって細められると、焦点が合っているような合っていないような、不思議にぼやけた印象を与える。

それが妙に愛らしくて、この瞳って遺伝するのかな、するといいな、となんとなく考えた。



「いつ結婚できるかな」

「あのね、そんなだから、逃げられるのよ」

「でも潤は、別に今、逃げちゃいたいと思ってないだろ」



そうだけど、とふてくされたように言った時、明るいほうの瞳の色が、少し揺れたのが見える。

おや?



「照れてるの」

「照れてないわよ」



じろりとにらんでくるその目は、やはり先ほどよりも、いっそう金色に近い。

感情で瞳の色が変わるんだ。

海外の小説には、よく登場する現象だけど。

本当だったのか。

こりゃ面白い。



「言っとくけど、あなたなんか、瞳の色がなくても、考えてること丸わかりなんだからね」



本人も自覚があるらしく、じろじろとのぞきこんでいたら、不機嫌な声でそう言われた。

確かに丸わかりみたいだ。


でも、別にいい。

むしろ、そっちのほうがいい。

どれだけ気持ちが彼女に向いているか、言わなくてもわかってもらえるってことだ。



「にやにやしすぎよ」

「煙草、吸わないの?」

「だって淳一が、嫌だって言ったんじゃない…」

「それが理由で? ほんとに俺のこと好きなんだね」



少し驚いて、頭に浮かんだとおりを口にすると、今度こそ潤が悔しそうにぱっと頬を染める。

可愛くて、可愛くて、笑った。

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