オフィス・ラブ #∞【SS集】
葉巻かよってくらい煙が濃い。
今どき、こんな重いの吸ってる人、ほとんど見ないぞ。
彼女、こんなののそばにいて、肺大丈夫なの?
自分も、時流に押されてどんどん軽くしている奴らに比べたら、まともなのを吸ってるほうだと思うけど、比べものにならない。
俺の目の前の画面を、横からペンで指し示すたび、ダークグレーのスーツから、白いワイシャツのカフスがのぞく。
こういう部分って、意外と男の格が出る。
スーツの袖にはまったく傷みがなく、毎日着ていれば絶対にくたびれてくるひじの部分も、ぱりっと美しい。
ワイシャツは白く、のりが効いて清潔。
とりあえず確かに、上等な男だ。
「ここで、コンバージョン指標を選定できる」
「デフォルトが、拡散ですか」
「購買じゃないのかってことだろ。俺もそう思う。これは変える」
ひと段落したところで、煙草を口に持っていくと、俺にかからないよう短く煙を吐き、灰皿に灰を落とした。
「何か質問は」
「大丈夫です、あの」
ちょっと、休憩していいですか。
この数日というもの、新しい情報を詰めこみすぎて、さすがに頭の容量が限界で、そう言うと。
もちろん、と少し眉を上げてうなずき、なぜかスツールを離れて、喫煙所を出ていった。
PC置きっぱなしなんだけど、と思っているうちにすぐ戻ってきて、コーヒーでいいか、と俺に缶を放った。