オフィス・ラブ #∞【SS集】
「パッチが出たぞ。当てて確認頼む。あと関係各位にバージョンアップの連絡」
「はい」
「マニュアルの差分も吸収して更新。データを先祖返りさせるなよ」
「は、はい」
「17時から講師との打ち合わせに出る。時間的にお前は直帰だ。それまでにメドつけろ」
無理です。
と言いたいんだけど、この人、ぎりぎり全力出せば無理じゃない量の仕事を、ぴったり振ってくるんだよな。
どういう勘してるんだろ。
ぶっと通しで頭と目を使って、何時間ぶりかの喫煙所のスツールにぐったりと座る。
はあ、と息をつきながら首を回すと、バータイプのベンチにもたれて脚を組んだ新庄さんが、笑いながら煙草に火をつけた。
「いつから吸ってます?」
「まだ続いてんのか、それ」
あきれたように笑って、高校、と答える。
一応の敗北は認めたものの、ちょっと、この人自身に興味が出てきたので、調査は続行だ。
「それも、高校ですか」
右腕のひじの内側を指して訊くと、はっとそこを左手で押さえて、よく見てるな、と苦笑した。
一度、書類倉庫の整理に行った時、腕まくりをしているのを見て気がついた。
ありゃ、煙草の痕だ。
「別に、自分でやったわけじゃない」
「大塚さん、何も訊かないんですか」
新庄さんは、煙を吐きながら、困ったように笑う。
「あいつは、なんだかわかってない」
初めて、彼女に関する質問に答えが来た。
なんだよ、優しい声、出しちゃって。
こんな男に愛されて、いいなあ大塚さん、と考えて、逆だろ、と我に返った。