オフィス・ラブ #∞【SS集】
こんな状況でも食べやすいよう、ごはんに野菜も肉も全部乗っけた、ロコモコの中華版みたいな料理だ。

プラス、日頃から野菜の足りない新庄さんのために、さらにサラダを作った。



「男の人は、丼もの好きですよね」



なんの気なしにそう言うと、新庄さんのお箸が、ぴたりととまる。

丼から口を離して、私をじっと見ると、抑えた声で言った。





「誰のこと言ってる」





秀二のことでした…。


新庄さんの鋭い洞察に、身を縮める。

答えなくても、私の沈黙でわかったんだろう、新庄さんは、面白くなさそうにアイスコーヒーを飲んだ。



「よく作ってたのか」



えっ、続くの、この話題。



「はあ、まあ…」

「特に、何を」



…それです、と新庄さんの手にある丼を指して言うと、眉間のシワが深まる。


自分の部屋なのに、肩身が狭い。

しょうがないじゃないか。

元彼の好きなものが、得意料理になるなんて、当然の流れじゃないか。


新庄さんは無言で残りを食べ終えると、ごちそうさま、と言って食器を流しに下げた。

野菜の区別もつかないくせに、変なところで、しつけが行き届いている。



「新庄さんの、好きなものって、なんですか」



せっかくなら、今後はそれを作ろうと、キッチンからベランダへ直行しようとする新庄さんに問いかけた。



「思いつかない」

「嫌いなものも、そう言ってたじゃないですか」

「だから、思いつかないんだ」



いかにも苛々した調子でそう答えると、煙草をくわえながらベランダに出て、ガラス戸をぴしゃりと閉める。


なんだ、あの態度。

思いつかないって、なんだ。

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