オフィス・ラブ #∞【SS集】
あ、とふたりで画面をのぞきこむ。

ヘッドライトに照らされたコースに、ひしゃげたボディが一瞬映ったのだ。



「クラッシュですね」

「かなりいってたな」



完走するだけでもひと苦労で、毎年、死亡事故もあるくらいの過酷なレースだ。

なんでこんな危ないこと、わざわざするんだろうと思うけれど。

私でさえ感じる、この熱気は。

好きな人にとっては、もうやめられない、麻薬のようなものなんだろう。



「やっぱり動画配信があると、臨場感が違いますね」



こんなに面白くこのレースを見たのは初めてだと思って、ついそう言うと。

せっかく上昇しかけた新庄さんの気分が、またぴりっと下降したのを感じた。



今度は言われなくてもわかる。

完全に私の失言だ。



24時間追いかける動画の配信が始まったのは、今回からのことで。

私がそれ以前のレースを知ってるってことは、つまり秀二とチェックしてたってことだ。


何も言わずに画面を眺める新庄さんに、コーヒー淹れなおしてきますね、と小さく断って、そそくさと席を外した。



ドアを隔てた廊下にある簡易キッチンで、コーヒーが入るのを待ちながら、グラスに氷を落とす。

なんだろう、今日の新庄さんは。

モータースポーツ観戦とか、趣味に浸っていると、素になってしまうんだろうか。


子供みたいにすぐへそを曲げて、扱いにくいったらない。

あきれ半分、怒り半分で、グラスに勢いよくコーヒーをそそぐと、氷の割れる音に、なけなしの涼しさを感じた。



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