オフィス・ラブ #∞【SS集】
「寝る」
少しして、新庄さんが言いだした。
現地サーキットも夜が明けてきたので、ここからは、風景としては、ゆうべ見ていたものと変化がなくなってくる。
今夜のレース終盤に向けて、仮眠をとるつもりらしい。
「18時に起こしてくれ」
「私も寝ます」
そう言うと、は? と振り向かれる。
「お前、夜寝てただろ」
「ひとりで起きてるのも、なんですし」
あきれたように、よく寝られるな、と言われて、さすがにかちんと来た。
「今日は、寝てる新庄さんのほうが、たちがよさそうなので」
一緒にいるなら、そっちがいいです。
つんとそう言って、スピーカーのボリュームを絞る。
勝手な男め。
どうせ頭の中は車一色で、今は、私のことなんて、おさんどん係くらいにしか思ってないんでしょ。
誰が起こすか。
突っ立っている新庄さんを押しのけて、枕を叩いてふくらますと、奥へ寝ようとベッドにひざを乗せた。
そこを突きとばすように、腰を強く押される。
当然、私はなすすべもなく、ベッドの上に倒れこんだ。
抗議する間もなく、新庄さんが覆いかぶさってくる。
息がとまるくらいの力で抱きしめられて、その表情を確かめる前に、キスをされた。