オフィス・ラブ #∞【SS集】
背中の弱点に、次々と噛みつかれる。

歯と一緒に、濡れた舌を感じる。


腕は、まとわりつくシャツと一緒に、身体の下に拘束されて、抗えない。


くそ、くそ。


そう思うのに、的確な刺激に、身体は嫌になるほど反応して。

悔しくて、爪が布を通して手のひらに食いこむくらい、シャツを握りしめる。



「声、どうにかしてもらえないか」



隣に響く、と、嫌味ったらしい声が、低く耳に吹きこまれる。

その間も、手は、熱っぽく私の背中を行き来していて。

歯を食いしばるけれど、漏れる声は、自分でも恥ずかしくなるほど、あられもない。


肩越しに、その顔を見あげる。

最高に憎たらしい、余裕の笑みに、私の怒りは頂点に達して。



「最低」



震える声で、そう吐き捨てた私に、新庄さんは、満足げに笑うと。

急に優しい手つきになって、シャツを私の腕から抜き、そのまま抱きしめて、髪にキスをくれた。


弾む息の下、結局は、その優しさが嬉しくて。

身体を返して、裸の身体に腕を回す。

いつだって、何度触れたって、見るだけでドキドキする、新庄さんの身体。


キスを、とねだると、応えてくれる。


やっとくれた、いつものキス。

優しいその感触に、酔う。



スピーカーから、低い走行音と、甲高いブレーキ音が、かすかに聞こえてくる。

熱く焼けたゴムと、アスファルトと、土ぼこりを連想させるその音は。

ストイックで、凶暴で。



まるで、夏そのもの。


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