オフィス・ラブ #∞【SS集】
「『恵利』も?」
新庄さんがうなずく。
「難しいほうの『え』って、わかるかな」
「あの『る』みたいな」
なんとなくわかる気がしてそう答えると、新庄さんはおかしそうに吹き出した。
「そう。『利』は、そのまま」
それはわかる。
見たまんま「り」だ、きっと。
そっか。
あたしの名前、お姉ちゃんの名前と、ちゃんと共通点があったんだ。
いつも、お姉ちゃんの字は、意味がわかりやすくていいなって思ってた。
一緒なのは、二文字ってとこくらいだなって。
「女の子らしく生きられるようにって、つけたんじゃないかな。ひらがなは女性の文字だから」
吸わないうちに、灰だけになってしまったタバコを、灰皿に捨てながらそう言う。
そんなこと、初めて言われた。
今まで思ってたのと、完全に逆のこと。
「『なほ』だと呼びづらいから、音は『なお』にしたって、聞きました」
「確かに、なおちゃん、のほうが言いやすいね」
うなずきながらそんなふうに呼ぶのに、あたしは、どきんとして。
姉、呼んできます、と言って、走って部屋に戻った。