オフィス・ラブ #∞【SS集】
「好きねえ」
「好きだよ」
ベッドにあおむけになって、車雑誌を読む貴志に、あきれて声をかける。
ちょっと暇があれば、これだ。
別に、いいんだけど。
「煙草、吸ってもいい?」
私の部屋では、毎度、律儀にそう尋ねる彼に、承諾のしるしとして灰皿を渡す。
貴志はうつぶせに体勢を変えると、横に置いていた赤い箱から煙草を取り出して、くわえた。
つきあいはじめてから知ったのだけど、彼と私は、誕生日と血液型が同じだ。
といっても、生まれたのは、私のほうが一年早い。
やっぱり年下だな、と思う時と、末っ子の私にとってはまぶしいような兄貴ぶりを発揮する時があって。
総じて私たちは、うまくやっていた。
ソフトウェア会社で広報をしていた私は、かなり忙しいほうだと自認していたのだけれど。
貴志に比べたら、まだまだで。
「朝の銀座を歩いてるのは、って、あったよね」
代理店の営業マンの多忙さを揶揄した言い回しを口にしたら、古い! と大笑いされた。
あまりに向こうが忙しく、なかなか会う時間を確保できないので。
半年ほどつきあった頃、一緒に住もうよ、と思いつきで提案したら、貴志は、しばらく考えこんでから、言った。
「俺んち、来る?」
独身寮で、どうやって同棲すんの、と突っこもうとして、気がついた。
実家だ。
そういう、変な真面目さを、持っている男だった。