オフィス・ラブ #∞【SS集】
「24時間営業のスーパー」
「車を維持できる設備」
「駅歩は、5分以内かな」
「譲れないな」
「通勤時間は、30分以内がいいんだけど」
「俺は、1時間くらいなら、いいよ」
お互いの職場が全然違う場所にあったので、どこに住むかを、ゼロから検討する必要があった。
「治安のいい路線じゃないとな」
「そんなの、気にするんだ」
驚くと、あきれたような声が返ってくる。
「お前の話だよ」
ぱしゃりと水音を立てて、後ろから私を抱きしめると、耳のうしろにキスをくれた。
首をめぐらせると、懐っこく唇を合わせてくる。
もうすっかりぬるくなったお湯の中、貴志の肌のほうが、熱く感じられた。
あんなぶっきらぼうが、大丈夫なのかと心配していたけれど、私の実家で、彼は予想外にそつのない対人術を見せて、そういえばこの人、営業だったっけ、と改めて感心させた。
向こうの実家は、意外にもにぎやかな一家で。
職人肌のお父さんに、家庭的なお母さん。
兄思いの、ちょっと気の強そうな妹。
ああそうか、と思った。
彼は、こういう家庭で、愛されて育ったから。
基本的に、自分を疑わないんだ。