オフィス・ラブ #∞【SS集】
貴志の不思議さは、少しずつ理解できてきた。
考えているようで、意外に直感で動く彼の思考は、外からは読みにくい。
回転の速い頭が、どういう思考回路でその結論に至ったのか、はたで見ていると疑問に思うことも多いけれど。
そういう時、案外あの人は、何も考えていない。
ただ、自分の感覚を信用しているだけ。
自分に自信がある、というよりも、もっと根底の部分で。
彼は、自分を疑うことを知らない。
そのぶれなさと、まっすぐさは、私にはとても新鮮で、まばゆくて。
引っぱっていってほしいなんて甘えたことは考えないけれど。
同じ道を、どこまでも進んでみたいとは、思った。
「俺、学生の頃、ここからすぐの駅に住んでたよ」
「住んでみたい路線、ナンバーワンて言われるところじゃない」
へえ、と貴志が目を見開く。
「妹が決めたから」
知らずに住んでいたのか。
貴志らしい。
契約した部屋は、建ったばかりの分譲マンションで、持ち主が急な転勤で住めなくなり、賃貸に出した物件だった。
年末前に、ふたりで移り住んだ。
放っておくと、最後にいつ食事をしたか思い出せないなどと言いだす貴志に、私は時間の許す限り食べさせて。
そんな生活を満喫していた。
祭りは前夜が一番楽しいと、そう言った人は偉大だ。