オフィス・ラブ #∞【SS集】
「じゃ、お前から別れたんだ」
「うーん…」
さすがに話しづらくて言葉を濁すと、もう終わった話なんだし、いいじゃん、と友人が言う。
貴志に申し訳ないと思いながらも、誰かに言って、少し楽になりたいという気持ちもあって。
突然貴志が帰ってきた日のことを話した。
案の定、彼の目が真ん丸になる。
「修羅場じゃん」
「向こうが冷静だったから、そんな雰囲気にはならなかったけど」
「いや、あいつ、そう見えて、それなりにショック受けてたと思うよ」
それは、そうなんだろうけれど。
そのあたりは、私はいまだに自信がない。
あの頃の私は、とにかくグラグラで。
貴志が好きで、好きで。
それだけに、すれ違いに、もう耐えられなくて。
心の隙間に、ふいに入りこんできた男と、関係を持った。
ふと魔が差して、家に呼びこんだ時に、泊まりで出張に行ったはずの貴志が、戻ってきて。
だけどきっと私は、そうなることを、心のどこかで、望んでいたんだろう。
ああこれで、貴志と別れるしかなくなったと、肩の荷が下りたような感覚が、確かにあったから。
それでも最後に、試したくなって。
あてつけもこめて、私の選んだ家具を持って出ると言った時。
彼は、どうぞ、と言っただけだった。
それを冷たいと言う権利は、私にはない。