オフィス・ラブ #∞【SS集】
たぶん、忙しい中にも、貴志はずっと、私を変わりなく大事にしてくれていた。

あまりに変わりがないので、私が勝手に不安になっただけだ。

不安のあまり、彼の考えていることがわからなくなったと、そう思っただけ。

自分の揺らぎを認めたくなくて、彼に非があると、思いたかっただけだ。


それでも、もう限界だと、貴志も感じていたに違いない。

もしかしたら彼もあの時、どこか、ほっとしたんじゃないだろうか。



「今思うと、なんであんなになる前に、ちゃんと話しあわなかったのかと思う」

「あるよなあ、そういうの」



うんうん、と友人がうなずく。


人から感情をぶつけられることに、意外と慣れていない貴志に。

あの局面に至るまで、私もついに本音を吐露することが、できなかった。

ぶつけただけのものが、返ってこなかったらどうしようと、思ったから。


結局は、私が彼を信じきれなかったのだ。



「で、その時の男と結婚したわけ?」

「ううん、少し同棲して、すぐ別れた。旦那とは、その後出会ったの」



7つ年上の旦那は、いわゆる「俺についてこい」タイプで。

私が必要としていたのは、こういう人なんだと、会った瞬間に思った。


それまでと、真逆の人。

人生は、わからない。



「貴志も、そろそろ結婚かな」

「どうだろうなあ。仲よさそうはにしてたけど。彼女も車に詳しいらしくて、マウントブッシュとか真剣に選んでたよ」

「へえ、って、わからないけど」



それでも、貴志が、自分の世界に誰かを踏みこませたことに、驚きを覚えた。

許容は求めるけど、共有してくれる必要はないと、そういうスタンスで、特に仲間も広げず、ひとりで楽しんでいたのに。


その子がよほど特殊なのか。

貴志が、変わったのか。

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