オフィス・ラブ #∞【SS集】
新庄さんの、学生時代の友達だという人が働く都内のカー用品店を出た後。
山側に行こうか海側に行こうか迷って、やっぱり夏だし海を目指そう、ということになった。
その代わり、いつも行く横浜の海ではなく、逆側に行こうと話が決まる。
「ガソリンスタンドですか」
「そう、面白かった」
新庄さんは学生時代ずっと、スタンドでアルバイトをしていたらしい。
この人が、キャップをかぶって、窓をお拭きしますとかやってたんだろうか。
まあ確かに、イベントなどでのお客様への対応では、模範となるくらいてきぱきと明るく、人好きのする態度を見せる。
営業員時代に培われたスキルだと思っていたら、もっと以前に養った能力だったのか。
「いろんな車が来そうですもんね」
「山側へ抜ける大通り沿いの店舗だったから、特にすごかったぜ」
さもありなん、だ。
煙草をくわえて、冷房を入れながらも、うっすらと窓を開けて、気持ちよさそうに外気を浴びている。
ほんとに好きなんだなあ、車。
「じき、誕生日だろ」
何がほしい、と訊かれて、少し考えて、ピアス、と答えた。
「兄にもらったのを、片方なくしちゃって」
「兄貴に、ピアスをもらうのか」