オフィス・ラブ #∞【SS集】
新庄さんは、持っていた煙草を店先の灰皿に落とすと、もう一度女の子を見た。



「名前は?」



困ったように新庄さんを見あげる子に、今度は私が、目線を合わせて、お母さんかお父さんは? と訊いてみる。

それを聞いた女の子は、ちょっと目を輝かせて、さっと腕を上げて、新庄さんを指さした。



「え?」



俺? と新庄さんが、思わずうしろを振り返るけれど、誰もいない。

うーん、わからないなあ。

とりあえずこの子、かなり長いこと外にいたらしく、頭がすっかり熱くなってる。



「車の中で、冷やしてやろうぜ」

「乗ってくれるでしょうか」



手を引いて、後部座席のドアを開けてあげると、私の手を振りほどく勢いで、座席に飛び乗った。

もし保護者が来てもびっくりしないように、ドアを開け放して、私と新庄さんも乗りこむ。


少し外にいただけで、私も髪が焼けるように熱くて、涼しい車内にほっとする。

さっき買った、丈の短いペットボトルのふたを開けて、助手席から女の子に渡した。

素直にそれを受けとると、女の子はしばらくじっと考えこんで、口をつける。


ジュースとかのほうがよかっただろうか。

ただの水なので、小さな子には飲みづらいかなと見守っていると、ものすごい勢いでごくごくと飲みはじめ、私と新庄さんを驚かせた。

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