嘘と本音と建前と。
しょんぼりとしている空知を司が宥(なだ)める。


空知は司と同じ年には見えない。


香織と同学年、あるいは一つ下でもおかしくないくらいだ。


緑色で着色された滑りやすい廊下を黙って歩いた。


他にも生徒はいるはずなのに放課後のオレンジに照らされた教室に

一人も見受けられない。


少しだけ開いた窓から冷たい風がカーテンを揺らしている。


その窓の向こう側にも変わらず誰も居なかった。


自転車置き場は学年ごとに指定された場所以外駐輪禁止になっている。


香織は校舎から少し離れた場所にある正門付近の自転車置き場から

鮮やかな赤色の自転車を取り出した。


自転車を押し、枝垂れ桜の前で待っているとすぐに司と空知がやって来た。


空知と司が前を走り、香織はその背中を追った。


空知が気にするように度々後ろを振り向いている。


「あたしは平気ですよ。」
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