嘘と本音と建前と。
そう言って香織は手を振り返す。


いつものくせで満面の笑みを浮かべてしまった。


顔のセレクトを間違ってしまった香織は空知の背中を見送りながら

ため息をついた。


「気が付いたら引っ張られてるからな。」


空知を見ながら司が呟いた。


これはきっと注意だ。


「先に言わんのは反則とちゃいますか。」


ささやかな反抗を聞かないふりで返された。


香織は誰かに聞かせるためについたのではないかというほどの

大きさでため息をついた。


図書室で借りていた本を半分まで読み進めてみたものの集中が

長くは続かない。


今日はこれといって約束はしていない。


しかし約束していなくても現れるのが司だ。


司と話すのは楽しいはずなのに今日はどんよりとした空模様と

同調しているのか暗い気持ちになる。


あれもこれも空知と別れた後の車内で見かけた奴のせいだ。


2年ぶりに見た彼、近藤幸也は私の元幼なじみだった。


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