嘘と本音と建前と。
司はスクールバックの底をバシバシと叩いた。


急かされて判断力が鈍った香織が会釈してから司の前へと座った。


香織が本を開き読み始めたのを司はじっと見つめていた。


地下鉄のくせに地上を走る序盤。


朝日が香織を照らしている。


明るすぎる朝日が香織の黒髪を半透明に透かしていた。


肌の白さと朝日が溶け込み、顔の輪郭もぼやけている。


二駅分ほど見つめていると香織が本を閉じた。


「あの、話しませんか。」


香織が気まずい顔をして司を見ている。


「別にいいけどなんで。」


司はリュックの肩紐に指をかけた。


「いや、集中できるわけないでしょ。」


香織が小さい方のチャックをあけ、本をしまった。
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