嘘と本音と建前と。
驚いた顔で見上げる香織をよそに司は珍しくあくびをした。


「今日、恐ろしく寒いよね。」


薄茶色のダッフルコートに司が手を入れた。


「自転車なんだから手袋買えば良くないですか?」


そういう香織は自分の息で手を温めている。


空知はネックウォーマーと毛糸の手袋を外してリュックに突っ込んだ。


自分の知らない間に香織と司の仲が良くなっている。


焦燥感のようなものが込み上げてくる。


靴箱で香織と一旦別れた。


「藤堂、手袋買わないの?」


靴箱のロックを開けるのに手こずる司を見た。


「高いし、別にいらないかなって。」


「ふーん。そっか。」


自分でも何故聞いたのかわからない質問だった。


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