嘘と本音と建前と。
司はまあ、空知がいいならと承諾したが後々の処理のことを考えて

別々で行くべきだったかとすぐに後悔した。


が、すぐに断るわけにもいかない。


後でしれっと米倉にでも押し付けようと司は思い付く。


人が良い米倉だからきっと引き受けてくれるであろう。


午後一番、香織の出演する劇が始まった。


結局米倉は捕まらずふたりで公演を見るはめになった。


最初はぼーっと見る程度だったが香織は演技が上手いせいで次第に

飲み込まれていきそうになる。


演劇にでも入っているのだろうかと司はどうでもいいことを考えながら

必死にそれを押さえ込む。


胸の奥がムズムズする。


ちらりと横にいる空知を見ると食い入るように

前のめりになりながら鑑賞している。


他の生徒を見てもそうだ。


司だけが孤立しているように思えてくる。


内容が耳から入って自分を満たしていくような感覚に陥る。


その感覚がありえないほど気持ちが悪い。
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