嘘と本音と建前と。
廊下の途中で司はメデューサと目が合った。


今にも噛み付かれるのではないかと思う程の威圧感だ。


しかしそんなものに怯える司ではなかった。


「あ、田中さん。お蔭でいい横断幕がかけそうだよ。ありがとう。」


怒った相手への対応は受け流すのではなく、持ち上げるに限る。


「そう。何の資料見てたかは知らないけど横断幕、期待してるわね」


資料なんて微塵も見ていない空知は田中の言葉に視力回復法を実践しているのではないかと思うほど目を泳がせている。


こういう時に空知は本当に使えない。


司は返事の代わりに作り物の笑顔を田中に向けた。


教室の雰囲気は司達が出て行く前よりも酷いことになっていた。


廊下にいる田中を一瞥し空知は重々しく「おい、横断幕間に合うか本当に微妙なんだけど」と口にした。


もちろんそのことも司は知っている。


他のクラスを見ればいかに自分のクラスが危機的か園児にでもわかる。


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