嘘と本音と建前と。
今から戻っていては遅れてきたとどやされる危険性があるため、

帰るに帰れない。


頬杖をつきながら窓の外を眺めた。


体育祭の日はあれほど暑かったのに1ヶ月半経っただけでもうすっかり寒い。


残暑が残り続けて11月に入ったのにここ1週間でだいぶ冷え込んだ。


急激な気温の変化に耐えられなかったのかそろそろ色付き始める

紅葉に何の変化も訪れていない。


こうも急激な変化だと防寒具の用意は早めにしておいた方が鉄則だ。


司は白のセーターの袖を伸ばし、暖房の風を顔に受ける。


その風は司が求めている暖よりも不快なものを乗せている。


選挙管理委員会担当の先生の声が教室に近付いてきた。


体育の教師で厳格な顔つきをしている割に女生徒にやたらと絡むことで

有名な人だ。


「本当に助かるよ、染谷。」


廊下で響いた先生の声に思わず司は目を見開いて、入口のドアの方へ

振り返った。


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