嘘と本音と建前と。
「いや、前に会った子だなって。染谷さん文化祭の日来てくれたから。」


司は本の上で手を重ね、香織に微笑みかけた。


司の微笑みを香織は微笑みで返し「文化祭に来たお客さんの顔、全員

覚えてるんですね。」と言った。


香織の手の中でじわじわと絞殺されていく。


「写真撮ってくれって言ってたから、特別だよ。」


組んだ手をまた組み直して図書室にかけてある時計を見た。


適当な理由をつけて帰るには微妙な時間帯だった。


「名前まで覚えてるんですね。」


香織の手は緩まれることなく確実に追い詰められていく。


「それは、その。」


圧倒的不利な状況でも空知のことを話すわけにはいかない。


「まあいいです。藤堂先輩は何を読んでいらっしゃるのですか。」


言い訳を探していた司にとって香織が話題を切り替えたことは

好都合だったが、何故今まで追い詰められていたのかその目的が

わからない。


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